技術情報
 
 
  2019. 9.28
 
   花はす栽培について知っておきたいことは、No.2蓮蹊香園に移りました。
 
   アドレスは、下記の通りです。
 
         http://j-lotus.org/
 
 
 肥料
 
 多量要素
 
 
 1.チッ素 (N)
 
  チッ素は有機質、尿素、アンモニア、硝酸などの形で土壌に施されます。植物は低分子のア
 ミノ酸などは吸収されますが、ほとんどはアンモニア、硝酸の形でチッ素を吸収しています。
  硝酸態チッ素は、低温でも吸収されやすく、カリウム、カルシウムなどとの拮抗作用がない
 などの特徴を持っています。アンモニア態チッ素は、土壌からの流亡が少ない硝酸態チッ素に
 比べ吸湿性が低く扱いやすいなどの特徴があります。
 
 
 チッ素の特徴と役割
 
  作物の種が土壌に播種されると、種内部の細胞の原形質の活動が始まり、生長が開始される。
  原形質の主体であるタンパク質は生命とむすびついた、含チッ素有機化合物で、約16%のチ
 ッ素が含まれている。作物は無機態のアンモニアや硝酸を吸収し、これからアミノ酸をつくり、
 さらにタンパク質ができあがる。このタンパク質を分析してみると、22種ものアミノ酸が含ま
 れておりこれらは生命維持に重要な化合物である。このほか葉緑素や酵素、あるいはホルモン
 や核酸といった、作物体内で重要なはたらきをしている化合物にチッ素が含まれている。した
 がって、作物が生長をつづける場合は必ずチッ素が必要で、その適当な存在は根の発育をたす
 け、茎葉の伸長をよくし、葉の緑色をよくする。そしてチッ素の施用は「良品質の作物を多収
 する」という、われわれの目的を支配する重要なかぎを持っているといえよう。チッ素は作物
 の生長量に比例して必要であるから、不足すると生育が著しく阻害されるが、ある反面、過剰
 な吸収は作物体を軟弱にし、倒伏させたり、病気に対する抵抗性を低下させたりすることとな
 る。
 
 
 チッ素の主な作用
 
 (1) 細胞の分裂や増殖。
 (2) 根、茎、葉の生育を促す。
 (3) 炭酸同化作用を盛んにする。
 
 
 チッ素過剰
 
  生産をあげるためにチッ素肥料を多肥する傾向が強い。いいかえればチッ素はそれだけ大切
 な肥料なのである。しかし「過ぎたるはおよばざるが如し」というように、チッ素の過剰は作
 物の過繁茂をまねき、茎葉が軟弱となり、倒伏したり病害虫にかかりやすい作物をつくること
 になる。
  また土壌が酸性化したり、高塩類化したりするなど、土壌の老巧化を早めたりする。
 
 
チッ素欠乏の作物への影響
 
  作物生育の基本となる葉緑素中の核にチッ素が含まれているから、チッ素が欠乏すると葉緑
 素が減少し、光合成能力が衰え、作物の生長が悪くなる。また細胞中のタンパク合成にはなく
 てはならないから、とくに細胞分裂の盛んな生育初期にチッ素が必要である。
  最近は肥料が多く施されるようになり、チッ素欠乏は少なくなったが、省力栽培によって生
 わらや、未熟なバーク堆肥やオガクズ牛ふんなどが、多量に投入されることがある。未熟な有
 機物が土壌に施されると、微生物の栄養となる炭素源が豊富になるため、微生物の繁殖が盛ん
 になり、土壌中にある無機態のチッ素を奪いとることになる。したがって、元肥にチッ素を施
 しておいたからと安心していると、土壌中では施したチッ素が一時微生物にとられてしまい、
 作物がチッ素不足の状態になる。水田転換作物で、土壌条件を良くしようと思い、未熟な推き
 ゅう肥やわら類のような、炭素率の大きい有機物を圃場にすき込むときは、その物質を分解す
 るために微生物が必要とするチッ素を余分に施用するとともに、土壌中で有機物が腐熟する期
 間をおいてから、作物を播種したり、定植するという配慮が必要である。
  作物の収量を支配するもっとも大きな要因はチッ素であるから、チッ素を欠乏させないこと
 が大切である。
 
 
2.リン酸 (P)
 
  植物に利用可能なリン酸には有機質の形、弱い酸に溶ける形(く溶性)、水に溶ける形(水
 溶性)などがあるが、植物に吸収されるには、溶解してイオンの形になる必要がある。
  有機質は微生物分解により、く溶性は植物の根から分泌される有機酸によって溶解すること
 によりイオン化する。
 
 
リン酸の特徴と役割
 
  リン酸は作物の生命現象をつかさどる重要な要素で、体内の各部位に含まれ、細胞核のタン
 パクの構成成分である。作物体内に吸収されたリン酸は、生長の盛んな芽の部位や根の先端、
 あるいは子実などに移動し、細胞の増加に役立っている。このように移動が活発であるから、
 作物体内での含量は部位によってちがいが大きく、重要な代謝作用をおこなっているところに
 多く集まっている。したがって、適当な量のリン酸が吸収されると、根菜類などでは根部の発
 育が良くなり、収量が増加する。
  細胞が著しく増加する生育初期に、適量のリン酸が吸収されていると、その後の分けつ・伸
 長・開花結実がよく、作物体が強健にでき、病気に対する抵抗力も強くなる。
 
 
リン酸の欠乏症状の現れ方
 
  作物体内のリン酸が欠乏すると、葉の光沢が悪く、暗い濃緑色となる。リン酸は体内で移動
 しやすいため、欠乏すると活動の盛んな新しい葉に移動するので、欠乏症状は古葉の葉柄や葉
 脈から現れるのが特徴である。
  欠乏が著しいときは生育初期にリン酸欠乏症がみられるが、普通は、花芽や子実が形成され
 るころから現れ、茎が太らず、葉が暗緑色となって、古い下葉が紫色を帯びる。しかし、この
 ような欠乏症がみられるのは、作物体内で相当著しい欠乏がおきているときで、普通は欠乏症
 状が外観に現れにくく、体内で潜在的欠乏がおきている場合が多い。欠乏症状が現れてから対
 策をたてても、なかなか回復しない。
 
 
リン酸の主な作用
 
 (1) 成長促進(根、茎、葉の数を増やす)。
 (2) 根の伸長、発芽力を盛んにする。
 (3) 品質を良くする(花や実の数を多くする、実入りを良くする)。
 
 
リン酸過剰
 
  チッ素やカリは過剰施用の害がでやすいが、同じ三要素でもリン酸は過剰施用の障害が現れ
 にくい。しかし、リン酸の過剰施用は、果実の生育が早くなりすぎたり、鉄・亜鉛・銅などの
 欠乏を誘発することがある。
 
 
リン酸欠乏の対策
 
1.応急的に処理する方法
 
 (1) 葉面散布
   リン酸欠乏がみられたら、作物の種類と時期のいかんを問わず、第1リン酸カリ、または、
   第1リン酸カルシウムの0.3〜0.5%液を葉面散布する。
 
 (2) リン酸肥料の施用
   火山灰水田では10〜15kg、開田した水田では8〜10kgのリン酸を追肥する。畑では土壌に
   リン酸が直接接触すると、鉄やアルミニウムなどと結合して不溶性になるので、堆きゅう
   肥か、腐食をしゅたいとした土壌改良材に過リン酸石灰をまぜ作物の根に近いところに条
   肥する。
 
 (3) マグネシウムの施用も考慮
   土壌中にリン酸があっても、マグネシウムが欠乏している場合は、リン酸の吸収が悪い。
   したがって、このようなリン酸欠乏症がみられ、対策としてリン酸を追肥するときは、そ
   の土壌にマグネシウムが欠乏していないかを調べ、少ないようであればリン酸と同時に、
   マグネシウム10〜30kgを施用する。
 
2.根本的な対策
 
 (1) 水稲は、生育初期の茎葉に0.7%以上のリン酸を含んでいないと、分けつがおさえられる。
   また、穂にデンプンが蓄積する時期には茎葉中のリン酸が多量にもみに移動する。したが
   って、生育初期にも、登熟期にもリン酸が欠乏しないように、収量に応じたリン酸の適量
   を施しておかなければならない。
 
 
3.カリウム(K)
 
  カリウムはほとんどのものが水に溶け、容易に作物に吸収される。有機質の形のものもあり
 るが、これも速やかに微生物に分解されるため速効性がある。カリウムが過剰だと苦土欠乏を
 引き起こすため、施設栽培や多量のきゅう肥の施用には注意が必要である。
 
 
カリウムの特徴と役割
 
  カリウムは、作物体内の細胞液の中にイオンの形で溶けていて、炭水化物の合成をたすけて
 いる。また、葉で合成された炭水化物が、主として蔗糖の形で子実に移行するときにもカリウ
 ムが糖を運搬する役をつとめているとも考えられている。作物体内の各部位に比較的多く含ま
 れているが、とくに生長の盛んな根の先端や新梢に多く蓄積され、古葉に少ない。作物が根か
 ら吸収した硝酸は、体内で還元されてタンパク質に合成されるが、カリウムが欠乏すると、こ
 の作用が順調に進まず、作物体内に硝酸が蓄積して、障害をおこすことから、カリウムはタン
 パク合成にも大きな役割を果たしているようである。また、カリウムはその溶液の高い浸透圧
 を通じて、作物体内の水分調節の役目をしている。カリウムが不足すると、水分の蒸散が盛ん
 になっておとろえしぼむが、カリウムが十分にあると、細胞の膨圧がたもたれるので、葉や茎
 が強健である。
 
 
カリウムの主な作用
 
 (1) 開花結実の促進。
 (2) 日照不足時に生育を促す。
 (3) 水分の蒸散作用を調節。
 (4) 根の発育促進などがある(チッ素に次いで植物の吸収量の多い養分)。
 
 
カリウム過剰
 
  養分が豊富にあるのがよいといっても、過剰に吸収させると、他の養分とのバランスがくず
 れ、そのため生育が阻害されることがある。とくにカリウムはチッ素・カルシウム・マグネシ
 ウムなどと拮抗作用があるので、一度に過剰に施さないことが大切である。毎年カリウムを多
 用していると、葉が硬化し、枝の伸びが弱り、樹全体が矮性化する。また、果実の表面が粗に
 なり、着色が悪く、甘味比が低下するので、風味が落ちる。
 
 
カリウム欠乏の対策
 
  カリウム欠乏がみられたら、生育のどの時期でもすぐに第1リン酸カリウムの0.3%液を葉
 面散布する。また、カリウムは土壌に施してから非常に早く作物に吸収される性質がある。た
 だし、砂地のところはカリウムの流亡が早いので、1回の施肥量を減らし、施肥回数をふやす
 ほうがよい。また、カリウムを一度にたくさん施すと、カリウム欠乏はなおっても拮抗作用が
 働いてマグネシウム欠乏がでることがあるので、この場合も少量ずつ回数を多く施すのが安全
 である。
 
 
4.カルシウム(Ca)
 
  わが国には酸性をしめす土の分布が広い。このような土は、植物養分としての石灰が不足し
 ていることはもちろんであるが、同時にリン酸・マグネシウム・カリ・モリブデン・ホウ素な
 ども欠乏しやすく、また、作物に有害であるといわれる遊離のアルミニウムなども存在してい
 る。土の中の有効態のCaの多少は生産力の大小に影響する重要な指標となるが、わか国の耕
 地の石灰含量は諸外国に比較して極めて貧弱である。これが畑地生産力の外国に及ばない原因
 の一つともみられている。
 
カルシウムの特徴と役割
 
  カルシウムは茎や子実よりも葉に多く含まれている。これは葉の中で行われる代謝作用のと
 きにでる有機酸を中和するためである。有機酸が葉のなかに集積すると、細胞液が酸性になり
 作物の正常な生理作用が阻害されるので、過剰分はカルシウムが中和の役をつとめている。こ
 のようにカルシウムは、植物体内にできるシュウ酸やペクチンと結合するので、古い葉に沈積
 して新しい葉への移動が少ない。また、カルシウムは体内の部位によって含量が著しくちがい、
 茎や果実に含量が少ない。また、カルシウムは作物体内での糖分の移動に関係するので、欠乏
 すると葉でできた炭水化物の子実への移動が妨げられる。
 
 
カルシウムの主な作用
 
 (1) 植物体内の害となる(有機酸)を中和し健全にする。
 (2) 葉緑素の生成。
 (3) 病害への抵抗力を強くする。
 (4) 硝酸態チッ素の吸収を助け、マグネシウムやカリウム等の吸収を調整する。
 (5) 重金属等の有害作用を軽減する。
 
 
カルシウム過剰
 
  土壌にカルシウムが多すぎると、土壌が中性ないしアルカリ性になり、マンガン・鉄・亜鉛
 ・ホウ素などの吸収が悪くなる。
  土壌改良の必要性が認識され石灰質資材の施用が多くなったこと、土つくりが進められ、市
 販のアルカリ性の土壌改良材が用いられるようになったことから、地域によっては、カルシウ
 ムが過剰になっている。土壌がアルカリ性になると、作物の生育は著しく悪くなる。
 
 
カルシウム欠乏対策
 
1.応急的に処理する方法
 
 (1) 葉面散布
   欠乏症がでた場合は、塩化カルシウムの0.3〜0.5%液か、第1リン酸カルシウムの0.3%
   液を、新しい葉にかかるように葉面散布を数回おこなう。
 
 (2) 石灰質肥料の追肥
   欠乏症が出た場合は10a当たり50〜80kgの肥料用石灰を全面に施用しておくと良い。
 
 (3) 土壌の塩類濃度を高めない
   肥料を一度にたくさん施して、土壌の塩類濃度が高くなりすぎると、カルシウムの吸収が
   衰えるので、肥料は土壌中で高濃度にならないよう全面全層に混和するか、分肥する必要
   がある。最近、土壌の塩類濃度を簡単に測定する器具が市販されているので、土壌の塩類
   濃度を作物栽培中に数回は測定するようにしたい。とくに砂質土では塩類濃度を測定して
   施肥する方法が望ましい。
 
 
5.マグネシウム(Mg)
 
  マグネシウムは葉緑素の構成要素として、また植物では各種の酵素作用の活性化に、またリ
 ン酸の吸収移動に関与する重要な要素であるが、実際の作物栽培において関心がもたれたのは
 ごく最近のことである。このものはまた、チッ素およびケイ素との関連において水稲のイモチ
 病の抵抗性とも関係があるといわれ、さらにカリウムと拮抗関係にあり、施肥技術の面に重要
 な問題を提起している。酸性土壌の分布が広く降雨の多いわが国では、カルシウムと共に慣行
 的に施されるべきものであろう。
 
 
マグネシウムの特徴と役割
 
  マグネシウムは葉緑素を構成している要素である。動物のヘモグロビンは、その構成の中心
 に鉄があるために赤い色をしているが、植物は葉緑素の構成の中心にマグネシウムがあるため
 に、緑色をしているのである。だから、マグネシウムが欠乏すると葉緑素が減少して葉面が黄
 色くなり、光合成が減じ、糖類やデンプンが少なくなる。
  甘味の強い果物には、マグネシウムが多く含まれている。マグネシウムの欠乏している圃場
 にマグネシウムを施用すると、糖度が高くなることや、炭水化物の合成と、その炭水化物が植
 物の体内を転流するための役割を果たしていることが推察される。また、マグネシウムは作物
 体内でリン酸が移動するのをたすける役目を持っている。そのためマグネシウムが欠乏してく
 ると、作物体内にリン酸が吸収されていても、細胞分裂の盛んな生長点にリン酸が運ばれない
 から、生育が悪くなる。こころみに、作物体の生長の盛んな部位や子実を分析してみると、リ
 ン酸とマグネシウムの含量が高い。これはマグネシウムがリン酸といっしょに移動してきたた
 めである。土壌中にマグネシウムが不足しているときリン酸を施しても、作物はそのリン酸を
 あまり吸収しないが、マグネシウムをいっしょに施すと、リン酸の吸収が著しく良くなる。
 
 
マグネシウムの主な作用
 
 (1)植物の新陳代謝を盛んにする。
 (2)たん白質や脂肪の合成に必要。
 (3)体内でのリン酸の移動を助けるなどの働きをする。
 
 
マグネシウム過剰
 
  マグネシウムの欠乏については、研究が多く、その欠乏症状も作物生産者によく理解されて
 きたため、最近では苦土石灰や硫酸苦土などの施用が多くなってきた。そのため場所によって
 土壌中の置換性マグネシウム含量が高くなりすぎる傾向がみられる。土壌のpHを調べずに苦
 土石灰を施したり水酸化マグネシウムを施したりすると、すでに酸性が改善されている土壌に、
 さらにアルカリ性の資材が投入されるのでpHが高くなり、ホウ素欠乏やマンガン欠乏、亜鉛
 欠乏などがでることになる。このようにマグネシウムの過剰は、土壌のアルカリ性の害として
 もあらわれるので、計画的な施用が大切である。
 
 
マグネシウム欠乏と対策
 
 (1) 葉面散布
   マグネシウムは葉面からの吸収がよいので、欠乏症がではじめたらなるべく早く1〜2%の
   硫酸マグネシウム液を10日おきに5〜6回葉面散布する。
 
 (2) マグネシウム含有資材の追肥
   土壌が酸性の場合は、水酸化マグネシウム約60kgを適当量の水にとかし畦間に施すと、早
   く吸収される。
   土壌pHが6.0以上の場合は、硫酸マグネシウムやキーゼライトを施用する。
 
 
6.イオウ (S)
 
  わが国ではイオウ(S)を含む肥料を硫酸根肥料と呼び、畑地は土を酸性にし、水田では硫化
 水素を発生して水稲根ぐされを誘因するとして、これを好ましくないものと考える傾向がある。
  しかし、イオウは植物の生育に欠くことのできない要素の一つである。
 
 
イオウの役割
 
  イオウは植物体中で、タンパク質の組成分としての重要なアミノ酸のほか、各種の有機化合
 物をつくっており、植物体内の酸化還元、生長の調整というような重要な生理作用に関与して
 いる。イオウが欠乏すると、体内の生理作用がみだれ、タンパクの合成に支障をきたす。植物
 体内で生長を調節するといわれるチアミン、ビオチンなどはイオウを含むビタミンB群の一種
 である。イオウは高等植物では根の発達をうながし、また一般にイオウが欠乏すると形成層の
 分裂が抑制され、肥大成長が阻害さる。葉緑素にはイオウは含まれないが、葉緑素の生成には
 間接的に関与するものと思われ、イオウが欠乏すると茎葉が黄化する。またある植物ではアン
 トシアンのため茎葉に青紫色があらわれる。このことは、イオウが炭水化物の代謝に関係をも
 つことを暗示しているのである。
 
イオウの主な作用
 
 (1) たん白質、アミノ酸、ビタミンなどの生理上重要な化合物を作り、植物体中の酸化、還元、
   生長の調整などの生理作用に関与。
 (2) 植物体中の特殊成分の形式(シニグリン)など。
 (3) 炭水化物代謝、葉緑素の生成に間接的に関与。
 
 
イオウ欠乏対策
 
  イオウの欠乏はチッ素の欠乏と見わけがつけにくい。したがって、イオウ欠乏を判定すると
 き、硫安と尿素をそれぞれ施したところをつくり、硫安区がよければ、その土壌はイオウが欠
 乏しているのである。作物体内のイオウ含量は、部位と生育の時期によってちがっているが、
 収穫期の葉中のイオウが15%以下は不足とみてよい。したがって葉中のイオウによってしんだ
 んするのがよいが、実際には分析がむずかしいので、前者のような施用試験をして欠乏の有無
 を判断する。欠乏していることがわかったら、硫安や硫酸カリを施すと葉色がよくなり、伸長
 も盛んになる。無硫酸根肥料がよいからといって、数年間も無硫酸根肥料ばかり使ったりせず、
 硫酸根も塩素根も適度に施用するように、肥料の種類を選ぶことが得策である。
 
 
 
特殊要素として
 
7.ケイ素 (Si)
 
  ケイ酸は植物の生育に必須なものか否かという研究は古くからつづけられているが、まだ必
 須元素には入れられていない。しかし、少なくても水稲に対しては、必須元素と考えて施用し
 たいものである。水稲はケイ酸を積極的に吸収し、通導組織を通って各部位に運ばれるが、水
 分蒸散の多い末端部ほど多量に沈積している。水稲体内で一度沈積したケイ酸が他の器官に移
 動することはほとんどないので、供給がとまると、その後に出た葉のケイ酸含量が低下してし
 まう。ケイ酸は全生育期間を通じて吸収させなければならない。普通、わらの中には10%以上
 ものケイ酸が含まれているが、とくに葉の表皮細胞に沈積してケイ化細胞をつくり組織の強化
 や、害虫の食害、イモチ病菌の侵入などの抵抗性に役立っている。ケイ酸は水稲根の酸化力を
 高める作用があり、過剰に在存する鉄やマンガンを根の表面で酸化沈積し、過剰の害を軽減な
 いし防止する。また、マグネシウムと相助作用があるともいわれている。
 
 
 
 
 
微量要素
 
  植物の要求量は少ないが、吸収量が極度に少なくなると、その欠乏症におかされる成分とし
 て、鉄、マンガン、ホウ素、アエン、銅、モリブデン、塩素、アルミニウム、コバルト、ナト
 リウムなどがある。しかし、これらの成分はある量を越すと、逆に植物に害を与えてしまう。
  微量要素の欠乏症が生じたときは、葉面散布でも対応可能な場合が多い。
 
 
1.鉄 (Fe) 
 
鉄の役割
 
  鉄が欠乏すると葉緑素の生成が円滑におこなわれず、そのため葉に黄緑、黄化、黄白化があ
 らわれる。鉄欠乏のによるクロロシスというのはこれである。ある鉄酵素(カタラーゼ)はま
 た過酸化水素を分子状の酸素と水に分解し、他の酵素(ヂペプチターゼ)は結合したアミノ酸
 を個々のものにバラす働きをしている。植物における光合成、呼吸あるいは根からの陰イオン
 吸収などにも鉄酵素が直接間接に関与していることが知られている。植物がマンガン、銅、リ
 ンなどの過剰によってクロロシスをおこすのは、本質的には鉄欠乏による酵素作用の減退によ
 るものと考えられる。
  鉄欠乏を契機として、植物体内の清浄な生理作用が円滑に進行しなくなることは、他の必要
 要素が欠乏した場合と全く同様である。たとえば鉄が欠乏した植物体では、チッ素の代謝が害
 され、タンパク質の合成が阻害されて可溶性のチッ化合物が増加し、また炭水化物の含量が低
 下し、あるいは他の要素の異常蓄積がおこる。
 
 
鉄欠乏症状
 
  鉄は植物体内を移動しにくい要素であるが、そのため欠乏の症状は上葉から発現するのが常
 である。はじめ葉脈間が黄化し、それが次第に黄白化し、甚だしい場合にはむしろ白化する。
  他の植物においても大体これと類似の経過をたどる。マンガン欠乏と見分けが困難な場合も
 あるが、鉄欠乏の場合の方が症状に白色味がつよく、またマンガンでは褐色壊死を生じ易いが、
 鉄欠乏にはこれがほとんどみられない。欠乏の甚だしい場合には全植物体が黄白化あるいは白
 化することがある。
 
 
鉄欠乏対策
 
  確実な診断法としては、硫酸第一鉄の0.1%程度の溶液を葉に散布するか、スプレーして回
 復をみるのがよい。それが鉄欠乏である場合には、液の附着した部分にだけ葉緑素の生成が肉
 眼でみとめられる。元肥の施すとき一緒に、マグフェロンを施しておくか、葉面散布に使うと
 きは、フェロンの0.1%液を作り葉面散布をしても有効である。
  葉面散布をするときは、午後4時以降の太陽の光の弱くなったときに散布する。
 
 
酸性肥料の施用
 
  硫安・塩安・塩化カリなど、土壌を酸性にしやすい肥料を施用するのがよいが、石灰質や苦
 土質肥料の過剰施用で、土壌が強アルカリ性になっている場合は硫黄華を10a当たり20〜30kg
 施用する。
 
 
2.マンガン (Mn)
 
マンガンの役割
 
  マンガンは葉緑素の成分ではないが、これを欠くと葉緑体の生成・発育が不完全となり、葉
 に黄白化(クロロシス)をおこす。石灰施用その他の原因で土の反応が高く、たとえば、pH
 6.5になると植物にクロロシスをおこすが、これに葉緑素の生成と直接関係のあるマグネシゥ
 ム、鉄などを与えても回復しない場合に、マンガンをあたえると健全状態に復することがある。
  この最もよい実例はエンパクにみられる生理的斑点病(グレイスペック)である。マンガン
 はこのように葉緑素の生成に関係するばかりでなく、光合成そのものにも関与しているものと
 思われ、マンガンが不足すると明らかに光合成作用がおとろえる。
  葉緑体には多量のビタミンCがふくまれ、葉緑素の健全状態を維持し、あるいは光合成を助
 けていると考えられるが、植物体各部における、ビタミンCの含量とマンガンの量とは比例的
 関係にあることから、マンガンはビタミンCの生成にも関係があるという説もある。健全な作
 物には、50〜100ppmのマンガンが含まれており、欠乏すると葉の緑色が淡くなるので、マンガ
 ンと鉄は、作物体内で密接に関係しながら葉緑素の形成に役立ち、酸化酵素の作用を促進し、
 チッ素の代謝や炭水化物の同化およびアスコルビン酸(ビタミンC)の生成に関与している。
  また、作物体内にマンガンが多く吸収されると鉄の吸収が低下し、鉄が多く吸収されるとマ
 ンガンが減少する。
 
 
マンガンの欠乏症状
 
  マンガンは植物体内での移動がおそいので、根からの吸収が悪いと、新しい葉が葉脈だけを
 残して黄化する。欠乏がひどくなると黄化した葉脈間が褐色になる。症状が葉脈間の黄化とい
 う。要素欠乏一般にみられる症状であるため、マグネシウム欠乏や鉄欠乏・亜鉛欠乏などとの
 区別がむずかしい。
 
マンガンの欠乏対策
 
  作物のマンガン欠乏の対策を大きく分けると、土壌に対する物と作物に対するものとになる。
  現在最も採用されている対策は次のようなものである。
 
 (1) 葉面散布
   欠乏症状があらわれだしたら、なるべく早く0.2〜0.3%の硫酸マンガン液か塩化マンガン
   液に生石灰を0.3%加用して、10日おきに2〜3回葉面散布をする。また、マンガンを含ん
   だ葉面散布剤も市販されているので、使用法をよく読んで散布すると薬害がでるようなこ
   とはない。
 
 (2) 酸性肥料の施用
   マンガン欠乏がみられたら、まず土壌の酸度を測ってみることである。たいていの場合は
   pHが高くなっているから、このような土壌には硫安・塩安・塩化カリなどのような土壌
   を酸性にする肥料を施す。硫黄華などを施して酸性にすることも早道であるが、マンガン
   欠乏の場合は、欠乏症がでたからといって作物に決定的な障害を与えることがないから、
   無理をして急に土壌を酸性にする必要はない。むしろ、酸性肥料の施用でゆっくり各作物
   に適したpHにするほうが安全である。
 
 (3) 硫酸マンガンの施用
   土壌がアルカリ性のときは10a当たり20〜30kg、土壌が中性のとき10〜20kgの硫酸マンガン
   を施用する。
 
 
3.ホウ素 (B)
 
ホウ素の役割
 
  ホウ素の要求量は他の微量要素に比較して多い。そのため微量要素としてよりもむしろ栄養
 的な作用にもあずかっているのではないかという見方さえもある。ホウ素は他の微量要素と異
 なって、軽い元素であって酵素の構成分となっていないので、その生理作用については不明の
 点が多い。それにも拘わらず、これが欠乏した際には、植物体に極めて特徴的な症状があらわ
 れることは学問的にも興味がある。
  微量要素の多くのものでは、欠乏症状として結局は葉緑素の減退、いわゆるクロロシスをあ
 らわすが、ホウ素の場合には最初は通導組織の退化、そのための葉の萎縮、ひきつづいての細
 胞膜の破壊と褐変壊死などとなってあらわれる。そのため欠乏の初期には目につきにくいとい
 うことになる。ホウ素は植物体のカルシウムの利用と密接な関係があるといわれているが、カ
 ルシウムは細胞膜の生成に関与しているので両者の関連はふかい。また、ホウ素の必須性は多
 くの主要作物で確認されており、生理的役割も最近わかってきつつある。ホウ素はでんぷんの
 加リン酸分解酵素の作用に関係があり、またホウ素と糖との複合体は遊離の糖類よりも生活細
 胞へ侵入しやすく、生長しつつある細胞に容易に転流することができ、したがってホウ素は生
 長点付近の組織の物質代謝へ密接な関係をもつものと考えられる。
 
 
ホウ素の欠乏症状
 
  植物にホウ素が欠乏すると最初は形成層の細胞分裂は旺盛となるが、組織の分化がおこなわ
 れにくい。そのため細胞膜はうすく、柔組織は増加するが、養分・水分を通導する維管束の形
 成がさまたげられる。このためにも炭水化物の転流が阻害され、各種の外観的な欠乏症状が出
 てくる。たとえば、植物体の矮性、茎・葉の肥厚とネジレ、葉に紫色のアントシアン色素類の
 出現などがみられる。欠乏の初期にみられる症状は、茎の生長点の発育停止・褐変などである。
  ついで枝枯がおこる。それが刺げきとなって多数の側枝を出しロゼット状、ヤブ状となるが、
 その先端の芽もまた枯死する。ついで葉に異常があらわれる。たとえば葉がカールする。しば
 しば水浸状の変化みられ緑色が退化してクロロシスをおこすこともある。葉、葉柄、茎はもろ
 くなる。
  花がつきにくく花が咲いても結実しにくい。根の伸長は阻害され、細根の発生が少なく太根
 が多く、それが褐変し根の先端がふくれる。最も注意を要することは、ホウ素は酸性土壌では
 溶脱し易いことと、欠乏症がみえない場合でも、ホウ素の施用で増収をしめす場合すなわち潜
 在的に欠乏する場合の多いことである。またホウ素が不足すると生長点にいわゆるホウ素欠乏
 症状があらわれるが、これは生長点への炭水化物の供給が円滑を欠くためといわれている。
 
 
ホウ素欠乏対策
 
  ホウ素欠乏の改良対策に用いられる資材については、普通の肥料にホウ素を含ませた土施用
 のもの、各種の微量要素と配合してこれを溶液とした葉面散布用のもの、ホウ砂やホウ酸のよ
 うに土および葉面散布両者いずれにも用いるものなど各種のものが市販されている。
  しかし、ホウ素は適量をこえると過剰の害が出やすい。過剰に対して他の微量要素よりもや
 や敏感である。
 
 
4.アエン(Zn)
 
アエンの役割
 
  アエンの植物体内における生理的な役目についてはまだ不明の点が多いが、酵素に関係して
 各種の生理作用の調整、とくに酸化還元反応に、重要な役目を果たしているものと考えられて
 いる。アエンが欠乏すると葉に特有の黄化・白化をおこすが、植物によっては淡緑色を呈する
 だけの場合もある。欠乏がさらにすすむと褐変をおこすときもあるが、これまですすまないう
 ちにアエンを与えると、緑色を取り戻すことから、アエンは葉緑素の生成に関係があると考え
 られている。したがってアエンが欠乏すると、生育が停止することもある。節間の伸長が阻害
 され植物が叢(そう)状になるのは、アエン欠乏の一つであるが、これはアエンが欠乏してオー
 キシンの含量が低下するためといわれている。オーキシンの含量が少ない植物にアエンをあた
 えると、オーキシンが増加する。アエンはまた植物体の水分平衡にも関係し、アエンが欠乏す
 ると水分吸収がおとろえ、細胞の浸透圧が高くなる。
  これはオーキシンの欠乏によって細胞膜の生長が制限されるからと考えられている。植物の
 アエン欠乏症は日光の照射がつよい位置の葉に出やすい。これはおそらくオーキシンの活性に
 かんけいがあるためと考えられる。青色光の下で生長した植物は、赤色光の下で生長した植物
 よりも欠乏症が早く出る。強い光と短い波長はオーキシンを不活性にするらしい。アエンはマ
 ンガンほどではないが、植物体内での酵素作用にも関係する。アエンが欠乏すると植物体内の
 酸化作用が攪乱される。アエンはまたタンパク質結合体(ペプチド)を分解する脱水素酵素の
 作用にも関係しているという。カビの中に含まれる酵素にはアエンを必要とするものがある。
 
 
アエンの欠乏症状
 
  樹木のアエン欠乏症状の典型的なものとしては、叢生(ロゼット)、斑葉病、小葉病、黄化
 などが知られている。アエンが欠乏した場合、どのような欠乏症状がでやすいかは、植物によ
 っておおむね異なっている。まず葉脈の間にマダラ状に黄変をおこし、これが次第に広がる。
  はじめは葉の大きさは正常なものと変わりないが、次に出る新しい葉が小さく、中肋(葉の
 中央をタテに通っている太い葉脈)の基部にわずかに緑色をたもつ。酷いときは葉も枯れ、樹
 木まで枯れることもある。根では細根もおかされ、それが次第に太根をおかすようになる。
 
 
アエン欠乏対策
 
  現在日本では、硫酸アエンと石灰との混合液が、アエン石灰液という名称でよばれ利用され
 ている。アエンは土壌での吸着・固定などが大きいので、土壌に直接施用するよりも、植物に
 スプレーすることが有効とされている。
 
 
5.銅(Cu)
 
銅の役割
 
  銅が植物体内における多くの複雑な生理作用にあずかっていることは、これが欠乏した場合
 の植物体の各種の変調から推察される。植物体内の酸化還元をつかさどる酵素のうちには、銅
 を構成分としてもつものが多数しられているが、植物体内に存在する銅の全部が酵素に関係す
 るのではなく、ほかの作用にあずかっているものもあると考えられている。銅の生理作用とし
 て現在までのところ、次のようなことがわかっている。
 
 (1) 銅は葉や他の部分よりも細い根に多く含まれている。したがってこの部分で重要な働きを
   しているものと思われる。銅に欠乏した植物を分析してみると、とくにアミノ酸の蓄積が
   多い。この現象は銅の欠乏に特有なものではないが、チッソを多用すると、銅欠乏にもと
   づく各種の病害がつよく出てくることは確かである。以上の事実から銅は植物の成長過程
   においてタンパクの利用に重大な関係があると推察される。葉緑体には銅の含量が高いが、
   銅が欠乏すると光合成作用が非常におとろえる事実がしられている。
 
 (2) 植物に傷をつけると、その部分が自然に着色してくることはよく知られている。
   リンゴ、ナシなどの皮をむいてこれを放置しておくと茶褐色に変化する。これには銅を含
   む酵素が関連している。銅はこの酵素の構成成分となっている。
 
 
銅の欠乏症状
 
  作物の銅欠乏症状は作物の種類によって非常に異なっている。これは作物体内の複雑な条件
 によって、発現の様相が支配されるためであろう。したがって各種の作物を通じての典型的な
 欠乏症状というものはない。なんら外観的な欠乏症状が現れていないが、生気のない作物に対
 して銅を施用したところ生育が旺盛となり、収量を増加したという事例も多い。
 
 
銅の欠乏対策
 
  欠乏症状がみられたら0.2〜0.4%の硫酸銅液か4-4式ボルドー液を、なるべく早い時期に散布
 する。前作物に欠乏がみられたところや、土壌中の置換性銅が、0.5ppm以下のところは、作物
 を植え付ける前に、10a当たり4kgの硫酸銅を水にとかすか、熔リンなどに混ぜて、均一に全面
 散布し、すき込んでおく。硫酸銅が6〜7kgになると過剰害がでるので、施用するときは量をま
 ちがえないよう注意することと、均一に散布することが大切である。
  欠乏症状があらわれていなくても、施用すると効果がみられることもあるが、これはその土
 地の条件や作物によって、効果があったりなかったりするし、場合によっては被害が出るので、
 銅の施用には細心の注意をし、安全性をたしかめながら施用しなければならない。
 
 
6.モリブデン (Mo)
 
モリブデンの役割
 
  モリブデンは植物体内で重要な働きをしていることが明らかになってきた。しかし、まだ不
 明の点も少なくない。今までのところ生理作用として次のようなことがあげられる。
  また、モリブデンが適当に吸収されていると、アエン・銅・ニッケルなどの重金属の過剰害
 を軽減することができるし、作物体内でのリン酸の有機化にも役立っている。
 
 (1) 細菌の遊離チッ素固定
   ラン藻類にも遊離チッ素を固定するものがあり、このものにモリブデンが必要であること
   が知られている。
 
 (2) 植物体内で硝酸の還元
   植物は硝酸とアンモニア両者を吸収同化することは一般によく知られているが、硝酸は植
   物体内でアンモニアにまで還元され、はじめてタンパク質その他に同化されるものと考え
   られている。モリブデンは、この硝酸の還元に関与する酵素の構成分となっている。した
   がって、もし畑作物にモリブデンが欠乏すると、植物体内の硝酸含量が増加する場合が多
   い。
 
 (3) モリブデンの他の生理作用
   モリブデンが欠乏するとビタミンCが減少する。ビタミンCの減少がモリブデンの欠乏の
   ひとつの症状であることについてはアルファルファその他多数の植物で証明されている。
 
 
モリブデンの欠乏症状
 
  欠乏症状は作物の種類によって多少ちがっているが、典型的な症状は、古い下葉か中葉に黄
 緑色ないし淡橙色の斑点ができ、葉が内側にむかってわん曲しコップ状になる。ひどくなると、
 緑色の淡くなった斑点が褐色になり、葉縁が枯死する。
 
 (1) モリブデン欠乏のおきやすい条件
   土壌の酸性が強くなると、モリブデンは土壌中の鉄やアルミニウムと結合し不溶性のモリ
   ブデン酸鉄とか、モリブデン酸アルミニウムになるので、作物に吸収されない。このこと
   は、酸性土壌でリン酸がリン酸鉄やリン酸アルミニウムになって作物に利用されなくなる
   こととまったく似た状態である。また、モリブデンは土壌中のリン酸が多いときに吸収さ
   れやすいが、火山灰土のようにリン酸が不足しやすい土壌では、作物にモリブデン欠乏が
   おきやすい。
 
 
モリブデンの欠乏対策
 
 (1) 葉面散布
   モリブデン酸アンモニウムか、モリブデン酸ソーダの0.01〜0.05%液を10a当たり100?ほど
   散布する。濃度が0.2%になると薬害がでるが、0.01〜0.05%の範囲であれば薬害のおそれ
   がない。しかし、果樹などは、芽のでた直後に散布すると薬害がでるので、この時期をさ
   けて散布する。
 
 (2) モリブデンの土壌施用
   10a当たり、モリブデン酸アンモニウムか、モリブデン酸ソーダ30〜50gを、過リン酸石灰
   とよく混和して施用するか、100リットルくらいの水にとかして作物の根もとにかん水する。
 
 (3) 土壌を強酸性にしないこと
   作物を植え付ける前に必ず酸度を調べ、土壌が酸性であれば、石灰質または苦土質肥料で
   栽培作物に適した酸度に調節する。
 
 (4) 有機物の施用
   稲わらや緑肥などにはモリブデンが含まれているから、このような有機物はモリブデンの
   供給源となるし、作物根の健全化に役立ち、モリブデンの吸収を多くすることになる。
 
 
7.塩素 (Cl)
 
塩素の役割
 
  塩素は作物体内で、リン酸やイオウと同じ程度含まれている。塩素が微量要素のリストに入
 れられたのは1954年であるから最も新しい微量要素である。その生理作用は不明な点が多いが、
 作物が光合成作用を行うとき、酸素の発性を行う酵素の作用をたすけているといわれている。
  また、デンプンやセルロース・リグニンなどの生成にも関与しているらしく、塩素が適度に
 存在すると、これらの高分子化合物が増加する。体内では茎や葉柄などに多く含まれ、移動性
 に富み、炭水化物の移動をたすけている。
 
 
塩素の欠乏症状
 
  塩素が欠乏すると葉の先端が黄化し、全体の生長が悪くなるといわれているが、現在わが国
 では欠乏症状があまりみられない。塩素の作物体内含量はどのくらいがよいのかなどについて
 の研究が少なく、今後の研究課題であろう。
 
塩素の欠乏対策
 
 (1) 欠乏のときの対策
   作物の塩素欠乏症状についてはまだ明らかにされていない。しかし、作物体を分析してみ
   ると、塩素はリン酸やイオウと同じくらい、あるいは作物によってはそれらの要素以上に
   含まれている。だから、いまの各作物が、塩素はこれで十分吸収していると満足している
   のか、不足なのかわからない。各作物の塩素の必要量は今後研究が進められるであろうが、
   海岸から遠い地帯では塩安や塩化カリを使用して効果があれば、これらの塩素含有肥料を
   使ったほうがよい。
 
 
8.アルミニウム (Al)
 
  植物によって土から吸収はされるが、その生理的な作用は明らかでない無機成分は多い。
  アルミニウム(Al)もその一つである。
  農業上、アルミニウムがとくに注目され、研究の対象となっている理由は、土壌中に活性の
 アルミニウムが存在するとリン酸を固定し、また作物の各種の無機成分の吸収を抑制するばか
 りでなく、作物そのものにも直接的に害をあたえることがあるからである。酸性土壌には水に
 とける、いわゆる活性のアルミニウムが存在し、これが作物の生育を阻害する一つの原因とな
 っていることは一般にみとめられている。わが国には酸性土壌の分布が広く、その改良は農業
 上、重要な問題となっている。またいっぽうでにおいて微量であるが、ある植物に対して、ま
 たある条件下でアルミニウムが植物に有効に働く場合のあることも知られている。このように
 アルミニウムについては農業上、まだ問題が残されている。
 
 
9.その他の微量要素
 
  ナトリウム(Na)およびバナジウム(V)については、幾多の問題がありながら、これが植物に
 対して果たしてどれほど必須の要素であるかどうか、いまだ研究途上にある。
 
  その他に、コバルト(Co)、ヨウ素(l)、ニッケル(Ni),、ルビジウム(Rb)などの微量要素があ
 る。
 
 
 
参考文献 多量要素と微量要素   山崎 伝 著
     作物の要素欠乏過剰症  高橋英一・吉野 実・前田正男 共著
     植物生理学大要     田口亮平 著
     土・肥料 ー全肥商連施肥技術指導員用テキストー
 
 
 
 
植物に対する無機元素の効用
 
 花はすはもとより、植物が必要とする肥料の働きは下記の表を参考にして下さい。
 

肥 料




効 果
 







N







P







K







Ca







Mg







Si







S







Mn







B







Fe







Cu







Zu







Mo







Na







CI







Ge
根の発育促進              
発芽成長促進                    
茎葉を健全にする        
活着の促進                        
根腐れ芯腐れ
空洞化の防止

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
病害に対する
抵抗力の強化

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
連作障害の防止                
隔年結果の防止                  
穀・豆類充実の促進                    
澱粉造成の促進                    
糖分造成の促進                          
個体重量の増加                    
貯蔵力の強化                  
 
 資料提供 根アップ研究会
 
 
 
 
 無断で他に掲載を禁じます。
 
 蓮蹊香園 園主 榎本輝彦
 
 
 
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